平成23年10月14日、石狩川支川の夕張川新水路(長沼町・南幌町・江別市)が、2011年度土木学会選奨土木遺産に認定された。
 石狩低平湿地を蛇行していた夕張川を直接石狩川へ合流させ、水害常襲地帯を穀倉地帯へ変貌させる礎となったショートカットで、歴史的土木施設としての高い価値が認められた。
 この歴史的大偉業は、夕張川洪水の禍根を断とうと、挑みつづけた人々の英知と情熱で成し遂げられたものだ。
 
     
 

選奨土木遺産の認定書とプレート(江別河川事務所蔵)

 
     
   
 

 夕張川は、もとは千歳川に合流しており、合流後は江別川と称されていた。江別川は川幅が狭いなど夕張川の洪水を受け入れることができずに溢れさせ、一帯は水害の常襲地だった。くわえて北国特有の泥炭地なため水はけが悪く、水が引くまでには10日ほどかかり農作物をだめにした。そして明治31年洪水が発生。同年、北海道庁に「北海道治水調査会」が設置され、いよいよ石狩川の本格的な治水が動く。
 明治43年からの第1期拓殖計画で石狩川と支川の調査がはじまり、夕張川調査には道庁から保原元二技師が派遣された。これは運命だった。
 保原は調査と測量を進めつつ、この年に夕張川治水の大方針を決断する。

 『栗山の丘から北を眺めた時、はるか北に江別の富士製紙工場(現在の王子製紙)の煙突が見えたのです。あの煙突を目標に石狩川本流への直線排水路を造るなら、今までの流路10里半を3里に縮小することができる。夕張川の改修はこれ以外にないと、その時に新水路法線のアイデアを私は定めてしまいました。以後、昭和11年の通水に至るまで、富士の煙突は明け暮れ人馬や機械の進撃の目標となったのです』(『夕張川治水略史』などより一部引用)

 保原は直ちに、夕張川が南西へと流路を変える地点から約11kmの新水路を引いて石狩川に直接流す、夕張川新水路計画を立案設計するに至った。

 
 
 

保原元二第5代石狩川治水事務所長

 
 

国土地理院 5万分の1地形図「江別(部分)」昭和35年修正

 

富士製紙工場の全景(北海道鉄道一千里記念)

 
     
   
 

 しかし新水路工事は、国の経済状況等の影響を受け、ようやく大正11年に着工をみたもののなかなか進まない。その間、住民は工事推進を訴え、保原自らも中央に陳情するなど必死の運動がつづけられた。昭和9年に、浚渫船・昭和号が豊平川から転用されるなどして工事は進み出し、昭和11年8月、人々の歓呼のなか夕張川新水路は通水した。保原はこの後、北海道庁を退官する。技師としての生涯を夕張川新水路に捧げた。
 さて夕張川新水路には、川底を削り(洗掘)橋梁等を壊したり、ショートカットで急勾配になったことで起こり得る危険があったため、中間地点には河道を安定させるための清幌床止工が設置されている。この床止工は、後に室蘭工業大学学長となる大坪喜久太郎等が、模型実験をして設計したものだ。昭和9年の生振捷水路に次ぎ、工事設計に模型実験という技術が導入された。
 また夕張川新水路を横断する鉄道橋の架設工事(函館本線)は、本道における付帯工事の始まりといえるもので、施工は鉄道橋の架設が当時の鉄道省、線路の盛土工事は北海道庁が担当した。さらに道路橋である江別大橋と清幌橋の一切の工事は、国が同時作業で直接施工するという画期的なものだった。

 
 
 

床止工の実験(石狩川治水史より)

 
     
   
 

 夕張川新水路ができてから水害は減少し、昭和37年には電力と農業用の大夕張ダムが竣功、農地に豊かな水が送られ、流域は有数の穀倉地帯へと発展を遂げた。その大夕張ダムは今、洪水調節も加えた多目的ダム「夕張シューパロダム」として、建設が進められている。
 また平成22年秋、夕張川にサケ・マスの遡上が確認された。清幌床止の魚道が改築され、その効果が早速表れたのだ。流域住民は以前から、カムバックサーモン運動に熱心に取り組んでいる。
 土木遺産・夕張川新水路は流域の歴史を語るとともに、新たな時代を歩む流域を支えつづけていく。

 
 
 
 
 

夕張川新水路と清幌床止を下流から望む(北海道開発局蔵)

 
 

<参考資料>石狩川治水史、江別河川事業所史、南幌町百年史、長沼町史

 
   
 

・川と人 第32号「石狩川の歴史」
・札幌開発建設部HP石狩川治水100年
  http://www.sp.hkd.mlit.go.jp/kasen/10chisui100/index.html
  石狩川流域誌 支川編 U 明治43年頃 夕張川流域「治水事業」 
  石狩川治水に係わる主な事業 39 夕張川新水路 40 清幌床止工
・札幌開発建設部夕張シューパロダム総合建設事業所HP「夕張と治水の歴史」
  http://www.sp.hkd.mlit.go.jp/kasen/08isiken/02genba/33yubari/index.html
・札幌開発建設部江別河川事務所HP 夕張川ニュースレター「夕歩道」
  http://www.sp.hkd.mlit.go.jp/kasen/08isiken/02genba/23ebetu/yuhodo/index.html

 
   
     
 
(石狩川水系の選奨土木遺産)
 ※平成24年6月現在
 
 

○平成14年度認定/旭橋(旭川市)、生振捷水路(石狩市)
○平成17年度認定/雨竜発電所(幌加内町・名寄市)
○平成19年度認定/千歳川の王子製紙水力発電施設群(千歳市)、札幌市水道記念館(旧藻岩浄水場)、
藻岩発電所取水堰(札幌市) 
○平成20年度認定/定山渓発電所施設(札幌市)、聖台ダム(美瑛町)
○平成21年度認定/第三雨竜川橋梁(幌加内町)
○平成22年度認定/創成橋(札幌市)、舞鶴橋(長沼町)
○平成23年度認定/夕張川新水路(長沼町・南幌町・江別市)

 
 

*生振捷水路については『川と人 第30号「石狩川の歴史」』に掲載