森田理事長(以降、理事長と略す): 鈴木市長は、2008年1月に東京都から派遣されて、財政再建団体となっていた夕張市にいらっしゃいました。当時、夕張シューパロダムはダム本体工事に着手しており、多くの方々が現場で働いていましたが、ダムの経済効果を感じられたことはありますか。
鈴木市長(以降、市長と略す):ダム入口に位置する南部地区の方々と話をする機会が多くあり、皆さんは、「ダムの工事でたくさんの人が来てくれてありがたい。でも、工事が終わるとさみしくなるね」という話をよくされていました。
 経済効果の話からは外れますが、東京には、夕張出身の方々が集まる「東京夕張会」、「東京大夕張会」、「東京夕張メロンクラブ」という3つのふるさと会があります。なかでも「東京大夕張会」は、ダムの建設により水没した大夕張地区に住まわれていた皆さんが集まる会で、毎年11月、全国から百数十人もの方々が集まります。皆さんには帰る故郷がない。東京に集まって、写真を見ながら思い出を語り合います。わたしは、こういった方々のご協力があって、工事が順調に進んでいるのだと実感しました。去年は、皆さんがツアーを組んで夕張シューパロダムを見学してくれました。ダムの様子や景色を見て、「夕張の素晴らしい財産になった」と話され、少し安堵しました。
理事長:ダムを作っている人たちからすれば、一番ありがたい言葉ですね。

 
     
 
 
 

理事長:完成したダムを、夕張市はこれからどのように活用していくのでしょうか。
市長:富良野芦別道立自然公園を背景に、山丸ごと天然記念物の夕張岳が日本で2番目に大きな湖面に映り込む、その景色を見ようと、ダム建設時から多くの方々がいらっしゃいました。2011年に、道東自動車道夕張IC〜占冠ICが開通しましたが、ダムへの道は富良野に抜けるルートとして、観光シーズンは夕張に立ち寄る方々も増えていいます。富良野市とは、観光担当者が話し合い、双方向PRを進めています。お互いの町をPRする、全国でも珍しい取り組みです。夕張にとどまるというより、富良野への途中や夕張メロンを買いに来た方が、夕張シューパロダムでひと休みして、きれいな景色を楽しむという、ドライブルートのなかの観光資源になると思います。眺望を楽しむビューポイントを作りましたので、皆さんに見てもらいたいですね。

 
     
 
 
 

市長:国土交通省が配布するダムカードが人気です。夕張には珍しいダムカードがあります。まず、水没した大夕張ダムのダムカードです。大夕張ダムは農林水産省が作った農業用のダムですが、このダムカードは、国土交通省が作った唯一の農業用ダムのダムカードです。そして、夕張シューパロダムの建設中のダムカードと完成後のダムカード。とくに建設中のダムカードは珍しく、インターネットのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)で話題になったそうです。
 また、1年間活躍したダムを称える「日本ダムアワード」という民間のイベントがあります。そのなかの放流賞に夕張シューパロダムが選ばれ、全体を評価する大賞部門でも第2位だったそうです。ダムマニアの方から一般の方まで、いろいろな方が楽しんでいただくことができる資源です。

 
     
 
 
 

市長:今、民間団体から意欲的な提案をいただいています。具体的には、カヌーや水上バイクといった体験型の事業も推進していきます。利用の際には、安全と環境等に配慮した一定のルール作りが必要で、今後はみんなでルールを作り、交流人口を増やす取り組みにしたいと思います。
理事長:カヌーは、自分の力で漕ぐため自然環境にマッチしますが、エンジンで走る水上バイクはどうでしょうかね。
市長:共存について2つの団体が話し合っていますし、水上バイクは事例もあるようなので、調査していると聞いています。ただ、このような提案が民間から上ったのも、ダムができたからです。供用開始以降は、プラスに作用することは積極的に取り組んでいきます。

 
     
 
 
 

理事長:観光に来る人に、気持ちよくお金を使える場所を提供することが大事だと思いますが。
市長:南部地区の旧幌南小学校を「ゆうばり自然体験塾」として再活用し、アウトドアとインドア体験メニューを提供しています。川下りやラフティングもあります。ここでは、ダムができるため新規に職員を採用しました。訪れた方がお金を使う場とともに、雇用と定住の場、ひいては地域活性化につなげたいと考えます。
 ダムによる地域振興は、まず、1年間は様子を見た後、方策を立てたいと思います。
理事長:夕張シューパロダムの現場見学をした際、鹿鳴館でお昼を食べました。立派な建物で、ダムまでは車で20~30分と、よい観光ルートになると思いました。
市長:鹿鳴館は、北海道炭礦汽船(北炭)の迎賓館で、ちょうど100年前に建設されました。
 ほかにも夕張には、観光バスが連なるほどの紅葉の名所・滝の上公園があります。水力発電所・滝の上発電所は建築物としての価値が高く、今、北海道企業局は外観を活かしながら改修をしています。ダムから滝の上発電所へ足を伸ばし、その後飲食していただければ、気持ちよくお金を使ってもらえるのではないでしょうか。
理事長:夕張の町中の「カレーそば」はおいしいですね。
市長:夕張市内のほとんどの飲食店で、「カレーそば」が楽しめます。じつは、「ご当地グルメでまちおこしの祭典B-1グランプリ」に出ようと、「夕張カレーそば協議会」を立ち上げ、共通ののぼりとルール等をつくったところです。

 
     
 
 
 

市長:空知管内を訪れる外国人観光客のうち、9割以上が夕張市に宿泊します。ほかの市町に宿泊施設が少ないことなどがありますが、この圧倒的なシェアを活かし、宿泊する外国人に夕張シューパロダムをPRすれば、空知を訪れる外国人の9割以上に知ってもらえることになります。国の大型事業であるため、メイド・イン・ジャパンの技術力を世界に知っていただく機会にもなります。
理事長:ダム管理棟でも、ダム技術を含め、夕張市の広報ができれば良いですね。
市長:3月20日に、北海道企業局によるシューパロ発電所の発電式が行われました。26,000世帯の電力をまかなうこともあって、子どもたちへの電気の学習がはじまります。スイッチを押せば電気は点き、蛇口をひねれば水が出ると思っている子どもたちに、電気と水はどこからくるのかを知ってもらうことは意義深いことです。ダム管理棟は、ダム建設中から、札幌圏の子どもたちを含め多くの方々の視察を受け入れていますが、それが発電所でもできれば、さらに交流人口につながります。ダム完成後も情報発信をすることが大事です。
理事長:夕張シューパロダムで洪水をカットすることで、札幌圏も守られていることを子どもたちに知ってもらうのは、当財団の仕事の一つだと思います。今後は、夕張シューパロダムを使って、治水事業や農業事業、夕張市の情報を発信したいと思います。

 
     
 
 
 

理事長:石狩川流域46市町村では、「石狩川流域圏会議」を立ち上げ、サイクリング観光を推進しています。このたび恵庭・千歳圏のコースマップを作りましたが、今後は海外からのサイクリスト用に、各国のバージョンを作りたいと思っています。自転車は、滞在時間が長く、宿泊と食事を伴うため、地域活性化につながります。夕張市も、ぜひ、サイクリングルートに入ってもらいたいと思います。
市長:夕張市役所は、じつは北海道一標高が高い役所だそうです。しかも、まちの真ん中ではなく一番北にあります。サイクリングでは、ダウンのない、アップアップのコースになりますが(笑)、それでよろしければ、ぜひ、自転車で夕張を楽しんでいただきたいと思います。
理事長:帰りはダウンダウンですから、それもよいのではないでしょうか。
 本日はお忙しい中、ありがとうございました。夕張を元気にするために引き続き頑張って下さい。

 
 

*本文に出てきたスポット等は、夕張名所ガイドページで詳しく紹介しています。